診断メーカーから創作カプ小説

盾を構えろ!誰得小説だ!こいつらの設定はTwitterの@ flove_last_war にまとめるかもしれません。

 

 

 

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「この男の脳みそはピンク色をしているに違いない」

カフェの丸いテーブルを隔てて、向かい合わせに座ったまま、ユリアはコーヒーを飲みながら私を見て言った。
言葉の真意が掴める気がせず、私はユリアの憎たらしい真顔を睨みつけるように覗き込んだ。
なにか理由があると思った。わけもなしにこのヘタレボーイがそんなにグロテスクな妄想をできるのか?

「俺を見て、そう思ったことはないか」
「は?」
「俺の脳みそは何色だと思う?」

ああーなんということでしょう!ユリアが然るべき研究機関に行く日が来てしまったではありませんか!
とうとう精神病院レベルまで落ちぶれたか、と思って、私はそっとハンカチを取り出して涙を拭く素振りを見せる。が、ユリアはそんな私の手首をそっと押さえて優しく首を横に振った。私たちの座るお互いの椅子が軋む。

「何色だと思う」
「ユリア君、参考までに聞かせてほしいんだけど脳死してる人間の脳って何色?」
「リフは面白い罵倒を覚えてきたな」

ユリアは真顔で面白いなどとほざいた。この男のそういうところが脳死患者だと私は申し付けたい。ユリアはカフェ店員だから、自分の感情と倫理をコーヒー豆と一緒に磨り潰したのかなあ、と最近は真面目に考察し始めている。
私の性格をバラバラになった倫理観を無理やり繋ぎ合わせたような状態と形容するなら、この男は倫理観を神にハンマーで叩き割られた上でそれに気づいていない状態だろう。

「脳みそピンクって何なの?暗黒趣味の幼稚園児の落描きとか見て気になったパターン?」

私は思わず聞いてみた。どこでそんなグロテスク知識を浴びたのかを知りたかったのだ。自衛は勉強から始まる。爆発物はどこに潜んでいるかわからない。
ユリアはまた真顔で答えた。

「お前の13歳ぐらいの時のお絵かき帳を見て気になったんだよ。グロテスクな絵。目が青く塗られてる人間がいて、その頭から飛び出た脳みそがピンク色で塗られてあった。迫り来る死に苦しむ表情がよく表現されてたな」
「あぁ......それは......黒歴史......」
「あれ俺のことを描いたんだろ。俺の目は青いからな。ツヨさんから教えてもらった。永久保存決定らしい」

「は?」

全米が驚愕する形勢逆転が起きた。
私の表情筋が凍結した。あっこれは未来が見えなくなってきた。もう駄目だ全人類私と一緒に死んでくれ。なんでコイツ私の絵見ちゃったの?あとなんでお母さんコイツに託しちゃったの?ばかなの?しぬの?えっこれ隕石落ちねえかな。明日あたり降ってきてもよさそうな気がする。我が主よ人類史のリセットを。今。できるなら今やって。

「リフ...表情筋が死んでるんだが......」
「てめえに言われたら世も末っつってんだろ.....」
「お前の口癖に言い換えるなら、絶望しすぎて光堕ちした結果菩薩に生まれ変わった悪鬼の顔をしているぞ」
「死んで?」

顔を両手で覆ったまま隕石が落ちてくるのを待つことにした。いやーすごい人生だった。ユリア君きみはすごい。君は死んでも殺してやる。

「貴様はパンドラの箱を開いた。みんな死ぬ」
「じゃあ、リフは中二病の箱を開いたんだな......?」
「死んで」

ユリアは真顔でも哀れみ顔に見えるのが特にぶっ殺したいポイントだ。私には慈愛が殺意に見える。死の際にいる私をほっといて、リラックスしたままコーヒーを呑気に飲んでいるこいつの顔の方が愛らしく思えてくるのだ。

「ユリア。わかった。お前の脳みそはおそらく黒い」
「黒いのか」
「肺は煙草吸いすぎたら黒くなるんだろ?お前は存在から害悪だから脳みそも黒い。証明完了」

そうか、そういうことにもなるのか、とテーブルを隔てた向こうでこくこくと納得げに頷くユリアを何としてでも殺したくなった。まずオメーからだよ。どんな悪態ついても足りなくなったから後は暴力的手段しかねえんだよバカ野郎。
待ってろよ。このまま隕石落ちてこなくても後日私が手を下すからな。

「じゃあどうして昔の俺は脳みそがピンクだったんだろうな」
「そこ追求すんの......?」

しかしダメだ。ユリアは私の殺意など意に介していない。どうして私が怒ってるかすら理解していない可能性もそれなりにある。わかっている。私が一番知っているのだ。あなた頭おかしいですねと指摘されないとダメな男なのだ。無知は罪とはよく言えている。この男の生きざまを言語化したワードだ。

「ただ単にあの時の私、脳みそ飛び出して死にかけのお前を描きたかっただけじゃねえの」
私は普通に頭に思い浮かんだ説を用いて彼を罵倒した。

「確かに。死に悶えてたしな、俺の滑稽本でも作りたかったのかよ」
滑稽本は小説だよ、脳みそドス黒野郎」

この男にはもうどんな罵倒も通じない可能性もあるんじゃないか、と思うこともある。全人類死んでもこいつは堅物を貫きそうな気がしないでもない。
ユリアは私の悪口を聞きながら、また1口コーヒーを飲んだ。

「俺が死ぬ時は、ピンク色の脳みその持ち主らしく、
死にたくないと渇望して、死に恐怖を覚えて表情を歪める。そういう未来をお前は望んでいるんだな」

その言葉を言った時、こいつが目を細めたのは気のせいだったろうか。よくわからないが、囁くような笑い声も聞こえたような気がする。


「まさか今笑った?」
「かもしれない。そうだとしたら、俺は何色の脳みそだ?」
「せいぜい黒ピンクだよ」

ユリアはどこか安心したような表情を見せた。