白仮面

昔の思い出だし特にどうということはない。

 

小学一年生の時、三学期も終わりかけの頃、クラスのみんなで記念撮影をした。

みんな揃って楽しそうに写った記憶がある。ビジネスライクの世界に突入すると笑顔なんて薄い装甲だが、小1となると人類みな兄弟精神の子供たちが教室内に蔓延っている。なのでクラスメイトは仲良しこよし。クラス内の人間の大半にはいじめという概念すらない。先生のやさしい政治下に置かれてすこやかに暮らす。

しかしその中で軽くいじめられていたから私の人生お察しというものである。いや話せる相手はいたよ。いた。いたからクラス内での人権はあった。あったはずなんだ。

なのであまり1年の話はしたくないがその理屈でいくと今後小3の話も小4の話も小6の話も一切できない。なので話す。

いや、そんなにヤバかったのかって言われそうですが、ヤバかったから追及しないでください。察して笑って。だって幼稚園卒業後から人生の闇の時代始まって終わらないんだ...。

 

何の話してたのか。撮影だった。

年度末の写真撮影なんてめっちゃくちゃよくある。けど、小学一年生でも「みんなで思い出を残したい」というよくわからない友情は持てたんだな、とその時を思い返すたび感じる。連中はすごい。広く深い友情を重んじるパリピとしての目覚めが早い。

撮影場所はビオトープ。今の自分だったらすごく嫌々行ってただろうけど、その当時私も『やかましい』部類に入る娘だったのでキャイキャイウホウホ言いながらビオトープに向かって、みんなと並んでパシャリとしてもらった。

 

そしていよいよ年度末のさらに末となって、ビオトープで撮ってもらった写真が教室の後ろの黒板に飾られた。

みんなこぞって写真を見に行った。1年間積み上げてきた友情の集大成ならそりゃ見る。私も深い友情を積み上げられた相手などほぼいなかったけどとりあえず見に行った。見に行けという強迫観念がどことなくあるもんねあれ。

 

みんな仲睦まじく写っているが、私にとってはそれどころじゃねえ事実がいきなり目に入る。

 

男子生徒が腰に手を当てている。その腰と腕の間にいた、物理的にも倫理的にもありえない位置にある白い仮面。

 

 

露骨なレベルでの心霊写真である。

 

 

なんかびっくりしすぎてよく分からないこと言ってたと思う。テメェ何者だア゛ァン!?誰の許可取って担任先生の撮った写真に写りこんでんだオ゛ォン!?露骨だなテメェどこ中だァ!!とか言ってたんじゃないかなあ。どうでしょう。わかんねぇ。

しかしあの白仮面くん、おわかりいただけただろうかとかそういうレベルではない。百均で売ってるホラーグッズの生霊がなんの縁かよりによって小学校にカチコミしてきたようにしか見えないレベルだ。

なんという大発見。あと少しで進級する私が最後に見つけたとんでもねえ野郎。

無論小一の私がそれで黙るわけがない。すぐさま隣の女子に声をかける。ここで心霊写真の存在にみんなが気付いてくれたら嬉しいなー!なー!という善良な目的で私は叫んだ!

 

「この白いやつ幽霊やん!!心霊写真!!」

「えー!これ?違うやろ!先生どう思う?」

「写り具合でこうなってるんだと思うよ?」

「だよねー」

 

数秒ぐらいで一蹴された。違う。一蹴されたあとに二蹴ぐらいされている。そうだよね、死体蹴りよくないよって習うのは義務教育内の道徳授業だけど私達まだ小1だもんね。うん。

やはり、結局白仮面を白仮面として認識したのは私だけだった。みんな幽霊とすら認識しなかった。

ビオトープで写った白仮面くんにはそのまま何の追及も及ばないまま小学1年の課程は終了し、パリピ族と共に私は進級を果たした。

ビオトープの写真は白仮面ごと藻屑に消えたと思われる。消えていなかったとしても誰が保存しているんだ。もう進級から9年にもなるぞ。

 

そのあと色々あった。小学生の時にできた友達の大半とはもう一切連絡を取っていない。今交友関係がある小学生時代の人間はたった3人だ。

小1のクラスのメンバーについてなど何も覚えていない。その時仲が良かった人間とも連絡はとっていない。もうわかっている。だいたいどうせそんなもんだ。

 

しかし白仮面については、確実に死ぬまで私の脳裏に張り付き続けるだろうという確信がある。小学生時代の黒歴史の記憶は卒業後すぐさま薄れたので、もうあいつしか覚えていない。

あの白仮面のチープすぎて逆に衝撃的な姿を思い出すたびに、ビオトープでの記念写真がやけに素晴らしいものだったかのように思える。

私の中であの撮影自体に価値はない。撮影という行為で得られたものは一切ない。思い出もなにもなかった。

しかし教室の後ろに飾られた記念写真、その中にいた白仮面の存在はあまりにも大きすぎる思い出になった。友人がいないからこそ私はあの変態仮面に気づけたのかもしれない。

あれと友達になりたいなどとは全く言えないけど、あれは悪いやつじゃないだろう、とは思う。

 

しかしあいつはすごいな。男子生徒の腕と腰の間狙ってきたあたり白仮面の性癖がビンビンに感じられる。私も生霊化できたなら民王に出演して貝原茂平(演:高橋一生)の出てくるシーンに映りこみたかった。だって貝原茂平を邪魔しない程度に貝原茂平を堪能させていただきたいというのは原始的欲求であって誰にも否定されないものだよ。わかるだろうショタコンの白仮面。お前に手があればよかったのに。かたく握手したかったぞ。

すごく性癖の共鳴を感じる。どうだい?私が成人したら一緒に遠征してコミケ行くかい?私も成長してオタクになったんだ。ぼっち遠征互いに辛かろう。

 

話が逸れすぎている。

みなさんのお持ちのお写真に白仮面くんがいらっしゃったら、お祓いの前に御一報ください。そいつ悪いやつじゃないと思います。根拠はありませんが多分。