ふぁきん

万年スランプなのでなにも書けねえ

一部だけ文章上げておく

 

 

 

 

「幻想を幻想と決めつけて死にてえ」

早々に、珈琲1杯に角砂糖一つだけという注文を確定させたあと、生意気な少女は死の宣告をした。
カウンターにいた少年は少し間を置いてから「ああ」とだけ答え、1杯の珈琲と角砂糖を用意して彼女に与えた。
そのまま少女の向かおうとした机の向かい合った椅子を二つ引き、少年と少女が腰掛ける。
少女はマドラーを珈琲の中でちゃぷちゃぷと動かして、目の前に座る少年にその真っ赤な目を向けた。その目にたたえているのは炎というより血のようで、地獄変のようなものだった。それを見つめ返すのは安らかな青い目で、しかしそれも深海の如く暗かった。
少年をユリアと呼ぶ。ユリアの前にいる少女こそがリフである。ふたりとも精神はふつうのこどもを達観したも同然だが、互いにどこか、こどもよりもこどもらしい、という点があった。

「死ぬなよ」
「うるせえなあお前よ。私は夢を見すぎたの、なんなら殺してくれ」
「一言しか言ってないのにうるさいはないだろ」
「二言目もうるせえ。ああやだやだ死にたい、うるさくて仕方ねえ」
「また精神を壊してるな。...どうしてだ?」

いつも似たような理由だろうが。知ってるくせに傷口抉るんじゃねえよ、という言葉はリフの目が口ほどに語っていた。ユリアはやれやれといった様子で首を横に振る。
この似たような理由というのは、リフがこうして迷いに迷ってたどり着く結論が毎度同じになり、それにリフが悲惨さを感じて縄の中に自らの首を通したくなるというものからきている。

リフがこの珈琲を飲むまでに通り過ぎた惨状の道といったら、確かに人が聞けば憐れみ、
それを全て知っているユリアでも思い出す度に嫌気がさすようなものだった。
まず彼女の父はその道程で、とっくに死んでいる。それによってリフは心を壊した。
壊れた心は死ぬことを図り、それが差し伸べられた手によって止められても彼女の心の底の怨念や淀んだ闇は一切崩れることがなかった。
ただ、彼女に一方的に叩きつけられたのは、『たとえその救いの先については無責任であろうが、生きている限りこの生き地獄には自らを救ってくれる者がいる』という事実だった。

なので、彼女はユリアと出会うまで、世間から一歩ずれた位置にある自分の中の事実もとい信条と共に生きてきた。

(どのような形であれ生きていれば、いつかは少しずつ報われていく)

それを信じて、彼女はたくさんの罪を犯した。
人間は生きていれば絶対に罪を犯す、その言葉の中の魂の規定を大きく飛び越えた結果、リフは拗れた。
人殺しまでは至らないにせよ、たくさんの人間を傷つけ、その拗れは些細な言動で彼女の求めていたはずの救済を殺してしまうまでになった。
彼女の信じる救いの数が減っていく中で、彼女はたった1人になるまでそれを繰り返しながら生きている、ふりをしていた。

その道半ばで彼女の母親がその血塗れの手を掴んだ。そのまま引き戻すことはせずに、別の道に連れていくことにした。母親がとった行動はそんなものだった。

その「別の道」を選ばなければ、ユリアは生まれることなく、そしてリフに恋をするはずもなかったのだが、それはまた別の話になる。


「あのなリフ、幻想どうこうも気になるが、俺はお前がいなくなるのは嫌だ。はっきり言うなら、それは許せない」

このとおり、心を壊した女を、男は憐れみ慈しむことでしか生きられなかった。

「あぁ?私に許せないとか許可とか云々を言うな。輝かしいビジネスの世界に行け、ニートに構ってんじゃない。店員ならとりあえず死にたいって言った客には珈琲に毒を混ぜるぐらいやってほしいもんなんだけどねえ」
「どこの話だ、その世紀末は」

リフは卑屈と毒を交えたような、この年でよくもというほどの性格をした女だ。
誰にでも平等に与えられた青春を氷水に浸してゲラゲラと笑う、性根が腐りきった女。
そして、ユリアはたしかにリフにとっての最大の理解者だった。自分を理解する、これ以上にないものを、リフは心の奥底で渇望した。その結果としてユリアは生まれ落ちた。
だが、見ての通り崩壊した少女は達観した少年を軽視した。だからユリアがどうやって生まれたかをリフは理解していないし、そのためにふたりが迎える結末も、ユリアはわかりきっている。そしてユリアはリフの行く末を嘲笑うこともなく、恨むこともない。
リフは、何も知らずに、そしてユリアに未練の一つも残さず、真人間の形へと戻る。それでいいのだ。後腐れがない関係はそれでこそ成り立つのだ。ユリアは心の中でそう思っていた。
要するに、このふたつとも、不器用には変わりないが。それでもこの2人、もともと同じものだったとはいえ、拗れた不器用と優しい不器用に分かたれてしまったのだ。

 

 

ここまで

出来上がるのかどうかすらわからん 試行錯誤にもほどがある